言い訳

駄文ってことは知ってるから許してください

旅行記

深海を汽車が走る。
真っ黒な窓ガラスに映るわたしの姿の奥に、明かりがぽつりぽつりと灯っている。

随分遠くまで来た。
森を超えて街へ、そして今は海の中。

白い濃霧の中を滑るように行く鉄の塊の足元を覗けば、飛沫を上げ、波打っていた。空など見えないのに空の薄い青を反射する水面には、緑はひとつもないのに鬱蒼と繁る木の葉の影が踊る。

しばらく湖の上を走っていたかと思えば、シートベルトを止めるよう告げるアナウンスが流れて、車体が傾きはじめた。高度が上がるにつれて白い霧の密度も上がっていく。いつのまにか見ているだけで肌が濡れるような気がする霧はもこもこした雲に変わっていた。

少し眠ってしまっていたらしく、眩しさに目を覚ますと、車内が外から差し込む光によって黄金に染まっている。紫陽花の、マゼンタに近い紫色をした空に大きな雲の島が浮かんでいる。島の中では、幾何学的な形の建造物の群れが同じように、さらに高いところ、はるかな天空からの光に照らされていた。住人を失い、二度と生命の活気が戻ることはない街は、けれど金色に輝いていた。

雲を突き抜けて空を降りる車体はその勢いのまま、海の中へと潜った。あっというまに窓の外が真っ黒になって、点々と灯る光を目で追う。ぼんやりとゆらめく明かりのもとでは、わたしの知らない日常が営まれている。

そろそろ旅を終えて、わたしも家へと帰ろう。